EDT2015勉強会エネルギー②

※アースデイ大学は、アースデイ東京 オフィシャル トークステージを企画・運営しています

アースデイ東京2015「エネルギー・食と農・経済」テーマ勉強会

エネルギ―から考える私たちの暮らしと未来

講師:竹村英明

2015年2月4日「エネルギ― #2」竹村英明さん@GEOC①.JPG
原発と再エネ、その利権の構造
 日本では、「総括原価方式」により、コスト高の原発を推進していった。海外では、原発に掛かるコスト高問題から、再生可能エネルギーにシフトしている状況にある。
 東日本大震災が起るまでは、安全性を度外視してまでも、原発が一番コストの安い発電方法として推進していた。高いコストが掛かるということを認めたのは、東日本大震災の後になってからである。朝日新聞(2014年6月27日付け記事)では、事故対策費用を加えると、石炭よりも原発の方がコスト高になると発表した。政府は、かつて「原発1キロワット当たり5.9円」であるとして、他の電力よりもコストが安いと発表していた。ところが、コスト等検証委員会が2012年3月14日に発表した資料では、東日本大震災による原発事故を受けて、8.9円以上という表記になった。原発が一番コストの安い発電方法であるとしていた計算方法は、廃棄物処理費用や事故対策費用等を加算せずに、原発の寿命を40年という根拠で計算していたからである。風力、太陽光発電等については、寿命を20年で計算しているため、コストの割高な発電方法に見えるようにしていた。
 日本の原発問題を語る上でのキーワードとなる「総括原価方式」とは、高い買物をするほど儲かる仕組みのことである。総括原価は、発電所、燃料費、運転費、営業費、広告宣伝費、電気事業連合会のM資金である。M資金とは、ジャーナリスト、政治家などを抱き込むために使うお金のことである。こんなのまで含め、全ての資金は、電気代として私たち市民が支払っているお金になる。総括原価の3%が報酬と決められているので、お金を使えば使うほど収入である報酬が大きくなるという仕組みになっている。この仕組みは、原発を推進していく根源であり、日本の再生可能エネルギーへのシフトの遅れの原因でもある。
 実際に世界で今、一番延びているのは、風力発電である。その次は、太陽光発電である。その反対に、原発は、毎年減少していっている。

核兵器と原発の深い関係
 核は、核兵器開発と平和利用で原子力発電という、二つの側面を持っている。核兵器としての利用は、1945年の広島・長崎への原爆を投下から始まり、1952年に始まった水爆実験へと続いていった。世界では、核開発競争に歯止めをかけるために、1968年核拡散防止条約など核軍縮の動きがはじまった。核拡散防止条約は、簡単に原爆、水爆を作ることや、実験することを禁止したため、核兵器技術の継承や、技術者の育成という点で問題も抱えることになる。そこで「平和利用」という名目での原子力発電を開始した。はじめはアメリカの原子力潜水艦や原子力空母での利用だったが、やがて発電炉、大型原子力発電へと動いて行った。つまり、原子力発電技術は、事実上の核兵器開発技術である。
 日本では、平和利用が言われるようになった直後、1954年に最初の原子力予算がつけられ、1966年に最初の原子力発電所が東海村で稼動した。日本は当初、使用済核燃料の再処理を海外に委託していた。再処理とは、核兵器の材料にもなるプルトニウムやウランを取り出す作業である。1988年の日米原子力協定の改定で、再処理が認められ、国内でプルトニウムを抽出できるようになった。1992年には、六ヶ所村のウラン濃縮工場も稼働し濃縮ウランもつくれるようになった。この流れは、日本が核兵器を作る力をつけるためにも必要なものであったと言える。
 ウラン採鉱は、採掘した鉱石の99.9%くらいが残土として残る。その残土からは、放射能が出ている。日本では、鳥取県の山中に残土を捨てたことで、放射能が流出して、田畑を汚染するという事件も起っている。
 ウランの濃縮とは、採掘した鉱石をガス化して、核分裂するウラン235の量を増やすことである。核分裂というのは、中性子がウラン235に当ると割れて高速で飛び散ることである。核分裂を繰り返す連鎖反応の中でウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239になる。濃縮が終わったウランの97%はウラン238のほうだ。濃縮ウランは、核燃料に加工され、原発に送られる。
 日本が国内外で保有するプルトニウムは、47.1tである。この数字は、8kg〜9kgのプルトニウムで作る長崎型の原爆を、5,000発以上保有していることに匹敵する。
 政府は、原子炉のバックエンドでかかる費用は、19兆円であるということを数年前に公表した。その内訳は、主に再処理の費用の11兆円で、残りは廃棄にかかる色々な諸費用ということである。政府、マスコミは、再処理すると廃棄物の体積は減ると宣伝しているが、実際には東海村で16倍、ラアーグで7倍、六ヶ所村で2.7倍ということで、体積は大きくなっている。

原発に妨害されてきた再エネ40年
 サンシャイン計画とは、1973年のオイルショックをきっかけに、1992年までに4,400億円(年/平均220億円)投入して、太陽光、風力を使った発電の研究開発をしていた。例えば、三菱重工業は、風車を作った。京セラやシャープの太陽光発電も誕生した。また、政府は、ムーンライト計画として、1978年〜1993年の間でエネルギ―転換・利用効率の向上という、省エネルギー発電の研究開発も行っていた。その後は、サンシャイン計画とムーンライト計画を合わせた、ニューサンシャイン計画として、1993年〜2000年までの間に、新エネルギー、省エネルギーの技術開発を行なおうとした。ところが、日本は原発に大きくシフトし、石油代替としての自然エネルギーを推進することに失敗した。
 この時に開発して、途中で放棄したものに、香川県仁尾町の平面ミラーによるタワー集光型太陽熱発電装置である。スペインは、日本が断念した集光型太陽熱発電を成功させ、セビリヤで、2万5千世帯にエネルギ―を供給している。
 東日本大震災による福島原発事故を受けて、菅直人政権は、2012年に固定買取制度(=FIT)という、太陽光、風力等の自然エネルギーを高く買い取るという制度を開始した。制度の中身は、再生可能エネルギーの電気を電力会社がたとえば32円/kWhで高く買取るが、電力会社の原価(「回避可能原価」と呼ばれる)に加算される金額(たとえば22円/kWh)は、実際には電力消費者である私たちが電気代の中で支払うというものだ。
 電気消費者の私たちは、1キロワットアワーで25円の電気代を払う場合、その内訳に再生可能エネルギー賦課金という名目で1キロワットアワーあたり0.75円を支払う。例えば、標準家庭で月に300キロワットアワー、8,746円分の電気を使った場合、再エネ賦課金の額は225円になる。ただし表示はされていないが、原子力関連の原価は、人権費、原発修繕費、事業報酬、核燃料、原発電力購入、税金等色々なものが入って、結局、1,057円になる。注目すべき点は、再エネ賦課金225円と原発関連費用1,057円の対比である。もっと負担が大きいのは、送電・変電・配電原価の2,377円であるが、この中にも原発と大消費地をつなぐための巨大送電線の建設、維持費用がかなり入っていると考えるべきだ。

電気の一生と電気のゴミ
 電気のゴミは、その殆どが原子力発電によるゴミである。電気について考えておかなければいけないことは、電気の一生についてである。電気の一生とは、燃料、発電・送電、配電、消費、に大別できる。電気のゴミは、燃料、発電でゴミの大部分を占めている。電気のゴミの定義は、再生も廃棄も不可能ということである。原子力発電の場合は、エネルギーを作る工程で、全てを放射能汚染するためゴミをつくる一方である。そのほかには、石炭・石油の採掘残渣と、発電した時に出る喘息を引き起こす物質SOx(硫黄酸化物)、NOx(窒素酸化物)、そしてCO2(二酸化炭素)である。特に、CO2は、地球温暖化を引き起こす物質である。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、燃料の資源採掘などがない為、有害廃棄物や処理不能なゴミなどはほとんど出ないのである。
 太陽光発電のエネルギー回収期間は、国際的な科学者の共通理解として1〜2年とされている。太陽光発電の装置は、主にシリコン、銅、アルミニウム、ガラス、硬化樹脂など、再生可能又は産業廃棄物として処理できるものからできている。ただ、アメリカのファーストソーラーで使用しいるCdTe(=テルル化カドミウム)は、毒性が高い為、環境に良くない可能性はある。蓄電池などは、レアアースを原料とした磁石を使用する。レアアースは、レアメタルの一部(希土類と呼ばれる)で、PC、携帯電話、IT機器、リチウムイオン電池等に使われている。レアアースは、地中ではウランやトリウム等と一緒に存在し、放射能による汚染が発生するといわれるが、じつは2種類のイオン吸着型鉱床とマグマ由来型鉱床がある。放射能が混在するのは、放射能を封じ込めているマグマ由来型鉱床で、開放型のイオン吸着型鉱床は、上から水が染み込んできて、放射能を分離して流しているので放射能による汚染はない。イオン吸着型鉱床は中国にしかなく、そのためにレアアースは中国に依存せざるを得ないという状況にあるということだ。ただし、今後の需要増加によっては、マグマ由来型鉱床を開発する方向になる為、要注意である。

原発をはるかにしのぐ再エネの力
 太陽光発電の寿命は17年ではない。17年というのは法定耐用年数のことで、減価償却のために設定されている数字だ。実際には、サンシャイン計画の時代から40年経ってもまだ稼動している太陽光発電もあるくらいで、30年くらいは平気で使えるだろう。日本の自然エネルギ―の注目株は、太陽光よりも潜在的な力を持っている風力である。その理由は、風力発電の潜在能力は、環境省によるポテンシャル調査によると、日本の電力需要の4倍の電気(3兆9千億kWh)をつくれるくらいの力があるとされているからだ。
 太陽光のポテンシャルは2,400億kWhで、少し前に原発だけで3,000億kWhといわれていた量に匹敵する。ほかに、小水力、地熱、バイオマス等、全部の再生可能エネルギーを使って日本列島の電気を100%賄うことは可能だ。省エネもあわせて、それを実現すると、風車は1基6億円として75万基必要になり45兆円。太陽光発電は75兆円。その他の自然エネルギーは42兆円。省エネに関しては、三菱総研が計算した82.5兆円という数字がある。
 合計すると、アベノミクスの200兆円よりも多い、244.5兆円となる。更に、再生可能エネルギーにシフトしていくことは、毎年20兆円といわれ、10年間では200兆円になる化石燃料の購入費用を削減することになる。経済効果は、10年合わせると444兆円である。再生可能エネルギーで、日本の経済は間違いなく発展するということになる。 

地球温暖化とピークオイル
 再生可能エネルギーは、地球温暖化とピークオイル問題への回答でもある。ピークオイルとは、石油を使ううちに生産量が減る方向に向かいはじめるポイントのこと。有限な資源である石油は、いつかは枯渇する。石油が少なくなってきた時には、油田の中に水を入れて、上の方に浮いた油を採り、生産量を維持するそうで、すでに今、そういう状態のところもある。
 地球温暖化は、CO2二酸化炭素を始めてとして、地球温暖化物質が地球を覆い、温室効果ガスという地球の熱を逃がさないことによって、地球全体の気温が上がること。その影響は、気温の上昇だけでなく、寒冷化するエリア、降雨量の激しいエリア、砂漠化するエリアというように、地域的な劇的変化を引き起こすまでになっている。北極、南極圏で起きている問題は、気温の上昇に伴い、氷が溶けて海水面が上昇することである。この北極で生じている現象は、ティッピングポイントという、「もはや逆戻りできない状況」に近づきつつある。
 これらの問題を踏まえた上で、私たちが目指す社会の形というのは、省エネをして、エネルギー消費自体を削減した暮らし方にシフトしていくことである。必要な電力は、再生可能エネルギー、自然エネルギーで賄うようにする。地域分散型で自立した社会にしていくことは、一人ひとりのみんなが大切にされる社会を目指して、「ゆとり」と「互助」、「安全」と「安心」、「美味しい」の満ちた社会の実現でもある。

電力システム改革と「イチデン」さんの闘い
 日本の電力会社は、日本の政財界全体、マスコミ、科学者等、殆ど全てを支配しているような、強大な組織である。東京電力は、福島原発事故後、事実上破綻していたが、金融機関から即座に2兆円の借入れをすることにより倒産を免れている。このとき国は、東京電力が原発事故の被害者に損害賠償ができるようにという名目で「原子力損害賠償支援機構」を作り、税金を湯水のように東京電力に流し込むという仕組みを作った。
 一方で、電力自由化に向けた動きがある。世界では、アメリカ、ヨーロッパを始めとした先進国と、2年前のメキシコを含めて主要先進国はすべて電力自由化を達成している。東電以外の電力会社は、コスト高の原発を抱えて、それだけでも電力自由化の競争に敗けそうなのに、さらに福島原発事故による東京電力の損失分を均等割りで支払わなければならない状況にある。電力自由化と原発維持はバッティングしているのだ。
 今のルールでは、電力会社が送電線を持ち、電力管内だけで需給調整し運用している。電力自由化による日本を一体としてつなぐ送電系統の広域運用とは、広域で需給調整し、例えば、東京電力の管内に、北海道で作った風力発電の電気を大量に流すことを可能にする。もう一つのルールは、電力会社が送電線の運用の決定権を持っていることである。送電系統の広域運用が2015年4月から開始するが、本当は運用ルールも新しくし、風力、太陽光等の再生可能エネルギーの優先接続、優先供給の徹底、第三者的立場での公平なルールを徹底しなければならない。
 ところが、昨年からの電力会社による「系統接続保留」問題は、再生可能エネルギーの「接続可能量」を各電力の管内で決めさせ、風力や太陽光等の再生可能エネルギーの系統接続を困難にしてしまった。とくに「指定電気事業者」制度は、指定された6電力会社(北海道、東北、北陸、中国、四国、九州)で、稼働もしていない原発の発電割合を大きくとることで「接続可能量」を小さくして、再生可能エネルギーに対して「無制限、無保証」での「抑制」(強制的に発電を停止させる)を認めるもの。原発再稼働のために、再生可能エネルギーを送電網から追い出した形だ。

市民が電気を「取り戻す」日
 しかし、私たち市民はこれまで、全国で約600箇所、首都圏だけでも43箇所に、市民による発電所を作ってきた。固定価格買取制度もこれを後押ししてきた。実際に広域運用がはじまれば、再生可能エネルギーの発電を「抑制」しなければならない状況は生まれない。確かに一時的な中断はあるだろうが、再生可能エネルギーの爆発的普及の流れは変わらないだろう。太陽光の次の候補には、小水力、バイオマスが有望だ。例えば、山があり、森があり、水が流れている長野県、山梨県、群馬県、栃木県等は適地である。この地域の市民は、新しい再生可能エネルギーの開発にチャレンジできる環境にある。開発にはお金がかかるが、もし金融機関が融資しない場合は、全国の市民がお金を投資するという、「市民出資」という方法もある。
 地域資源の開発でとりわけ成功しているものとして、岐阜県郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)地区と北海道寿都町がある。一つ目となる岐阜県の石徹白地区は、110世帯270人という、人口が減り続け、小学校も廃校になりそうな限界集落に近い地域だった。人口を増やすためにチャレンジしたことの一つは、山間部という地域性を活かして、企業に依頼するのではなく自力で水車を作り、小水力でエネルギーを賄ったことである。その結果、全国から500人規模で視察が入り、若者も移住するようになってきた。この地域は、北陸電力の管内だが、北陸電力は山越えしないと来られない「飛び地」なため、村の人たちに配電網の管理を委託している。つまり、電力自由化になると、この配電網を買取って、自分たち自身に電気を供給する、言わば日本のシェーナウ(ドイツ市民が作った電力会社)のような地域づくりの最短距離にある。岐阜県と郡上市も、この集落の全住民の電気を賄えるくらいの規模の発電所作りを応援している。
 二つ目の成功事例は、北海道寿都町。この地域では、地域の特性を活かして、企業に依頼するのではなく、自力で出資して風車を作った。幸運なことは、風車を作った直後にFIT(固定買取制度)が始まり、一気に収入が増えたことである。昨年度の収入は、以前の3倍の7億5,000万円になり、余剰金も3億7,000万円になったことで、赤字財政から一気に黒字になった。その結果、今後も風車を増やしていこうとしている。
 私たち市民は、2016年になると自由に電力会社を選び、買える立場になる。その時の一番の問題は、風力、太陽光等の再生可能エネルギーの供給量が不足するのではないかということである。 だから、そうはさせないという取組みが必要だ。
 今、eシフトの「パワーシフトキャンペーン」では、市民のみなさんに2016年から「風力、太陽光等の再生可能エネルギーへの契約変更するぞ!」という宣言のお願いをしている。逆に経済産業省は、FIT(固定価格買取制度)で私たち市民がお金(賦課金のこと)を出したエネルギ―については、電力小売り会社がエネルギーの内訳を明記して「環境に優しい電気」などと宣伝して販売することを認めない考えを示してしる。また一方で、「発電所の種類」を明記すべしという消費者のアクションもはじまっている。私たち市民にできるアクションは、いろいろある。風力、太陽光等の再生可能エネルギーの電気を選び、買いたい!という気持ちを表現して行くことが、とても大事だ。